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女性写真家が見たNY地下鉄 全路線の始発駅と終着駅をカメラに収める

NY地下鉄のA系統の終点ファーロッカウェーに近づく列車の中から撮影した写真

NY地下鉄のA系統の終点ファーロッカウェーに近づく列車の中から撮影した写真/Rita Nannini via CNN Newsource

(CNN) 写真家のリタ・ナンニーニさんがニューヨークの地下鉄に魅了されたのは、同市を離れた後だった。

ナンニーニさんは、1980年代から90年代初頭にかけてマンハッタンのアッパーウェストサイドに約15年間住んでいたが、当時は地下鉄の評判が悪かったため、小旅行向けの地下鉄1号線で何度か小旅行に出かけたことしかなく、地下鉄に乗ることはほとんどなかった。

しかし、90年代に夫とニュージャージー州プリンストンに引っ越してから、ナンニーニさんはニューヨークを離れたことで、逆にニューヨークの街に(恐らく動画で有名になったピザを運ぶネズミにも)愛着が沸いたことに気付いた(ナンニーニさんは、引っ越してからの数年間に友人や家族に会うために何度かニューヨークを訪れたが、その際地下鉄の設備や周囲の環境が劇的に改善しているのに気付いた、とCNNに語った)。

そして「終着駅」チャレンジ(10代の若者に人気があるとされる都市伝説で、たまたま来た電車に飛び乗り、終点まで乗り続けるというもの)の存在を知ったナンニーニさんは、地下鉄の全路線の始発駅と終着駅を訪れるという目標に挑戦することにした。

ナンニーニさんは、「終着駅」チャレンジを自分なりに解釈した結果、ニューヨーク市の地下鉄全26路線の総延長約1070キロを旅し、さらに「ボロー」と呼ばれる五つの行政区を全て訪れた。そして地下鉄各路線の始発駅と終着駅、さらにそれらの駅周辺のコミュニティーで計8000枚以上の写真を撮った。

多くの場合、納得のいく写真を撮るために、同じ地下鉄に2~3回は乗ったという。ナンニーニさんは、(恐らく控えめに言ったのだろうが)「(報酬のためではなく)あくまで自分がやりたくてやった仕事」だと語った。

(ズームを使ったCNNとのインタビューで、ナンニーニさんは「次はロンドンの地下鉄で挑戦したらどうか」と多くの人に言われた、と笑顔を見せた。しかし、ナンニーニさんは「いいえ、結構。もう十分やりました」と答えたという)

ナンニーニさんのモノグラフ「First Stop, Last Stop(始発駅、終着駅)」には、マンハッタンのダウンタウン地区にあるワールドトレードセンターのモダンなハブ駅「オキュラス」(E系統)から、クイーンズ区のフォレストヒルズにあるチューダー様式の建築物(R系統)、ブルックリン区ブライトンビーチの大西洋の中で行われた子どもの洗礼式(B系統)、ブロンクス区のウィリアムズブリッジ・オーバル公園で行われた10代の子どもたちのサッカーの試合(D系統)、さらにわずか2駅しかないシャトル列車、42丁目シャトルが結ぶタイムズスクエア駅とグランドセントラル駅の人ごみまで、ナンニーニさんが撮った選りすぐりの写真が収録されている。

ナンニーニさんは「(このプロジェクトを通して)地下鉄がどれだけ大切かが分かった」とし、さらに「我々の生活が持続可能なのは地下鉄のおかげだと気付いた」と付け加えた。

ナンニーニさんは「(私の写真に写っているのは)各路線の終点、つまり『終着駅』だとよく言われる」と述べ、さらに次のように続けた。

「しかし、各路線の終点は多くの人にとって『起点』だ。そう気づいた時、このプロジェクトに対する私の見方が一変した。(各路線の)起点と終点にはどんな人々が住み、どんなコミュニティーがあるのか、そして彼らにとって地下鉄はどんな存在なのかを考えた」

ニューヨーク州都市交通局(MTA)の最新の統計である2022年の統計によると、同年のニューヨーク市地下鉄の1日の平均利用者数は約320万人だった。

ニューヨーク市地下鉄は、米国最大の公共交通システムだが、その規模の大きさゆえに、通勤・通学時に生じる(中には望まない人もいるが)利用者同士の親密さや、区をまたぐ長旅か、ほんの数駅の短い移動かにかかわらず、車内でつり革をつかんでいる乗客の間で育まれる「(人間同士の)つながり」が見えにくい。

ニューヨークの地下鉄で行えるゲーム化された活動は、「終着駅」チャレンジ以外にも数多く存在する。「終着駅」チャレンジと同様に達成が極めて困難な課題として「地下鉄チャレンジ」が挙げられる。

これは、ニューヨーク市内に472カ所ある地下鉄の駅全てに立ち寄り、要した時間を競うもので、最短時間で達成した人はギネス世界記録に登録される(現在の最短記録は、ケイト・ジョーンズ氏が記録した22時間14分10秒)。

またラッシュアワーに機内持ち込み用のスーツケースを持ちながらタイムズスクエアを通過するという課題もある。

ジョーンズ氏は文字通り市内を駆け回ったが、ナンニーニさんはマイペースでやろうと考えた。そして2013年に自ら課した挑戦を開始し、昨年、同プロジェクトの最後の写真を撮り終えた。

ナンニーニさんはCNNに自著の最後の仕上げについて語り、「最後の写真を撮ったのは昨年1月。A系統の列車に乗っていて、『ああ、どうしてもインウッドでもう1枚だけ撮りたい』と思った」と述べた。

「電車に乗ると、ほこりまみれの男性が向かいに座った。恐らく、建設現場で働いていたのだろう。しかし、彼は手に花を持っていた。当然、彼はすぐに眠りについた。私は電車に乗っている間ずっと『彼は誰に花を渡すのだろう』と考えていた。花を持ったほこりまみれの彼の手が特に印象に残った。彼はミッドタウンのどこかで降りた」

ナンニーニさんは「いつも郊外で車を運転していたら、このような出会いは訪れない」と述べ、さらにこう付け加えた。

「地下鉄に乗っていると、さまざまな人があなたの人生に入ってくる。それこそがニューヨークの、そして地下鉄の素晴らしいところだ」

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